独り暮らしの女性

家庭医として患者さんと関わっていく中で、病気とは何か・健康とは何か・死とは何か…など様々なことを見つめ直す日々です。
 
70歳代前半の女性で独り暮らしをしていた患者さんがいました。認知症とアルコール多飲のために日常生活があやしくなってきたため、近くに住む息子さんの協力や介護保険のサービスを使って何とか生活を立て直そうとしました。
認知症といっても日常生活動作自体は問題なく(歩いたり、家事をしたり、簡単な買い物をする)、物忘れがメインで認知症としてはまだまだ軽度の状態でしたがアルコールの問題があるため安全に独り暮らしをするのは大変ではないかと思っていました。
実際室内で転倒してけがをして受診することも多かったですし、もちろん本人はそれを全く覚えていない。飲酒問題について話してもすぐに忘れてしまうし、酒は自分で買うこともできてしまうので一体本当にどれくらい飲んでいるのかを把握するのも困難でした。
 
そんな問題が出始めてから1年くらいになりましたが、今は落ち着いた生活をしています。
もちろん物忘れはありますが、もうアルコールを飲むことは無くなり、転んでけがをすることもありません。
正直何がよかったかはわからない面もありますが、定期的なヘルパーさんとご家族の訪問を継続し、私の月1回の外来も継続してこれからも経過を見ていくつもりです。
 
診察では、体調のことはもちろん聞きますが、生活の様子も聞きます。
その人は今の土地で美容師として40-50年働き、仕事を辞めた後も同じところに住んでいます。
ですから独り暮らしではありますが毎朝の散歩では誰かに会うし、友人も多く一緒に遊びにでかける機会もあるようでした。
そんな話を聞きながら、このようなつながりがあったから持ち直したのだろうかと思いました。いつも一緒に受診する息子さん(少し離れたところに住んでいます)も、自分のところに来てもらおうしたこともあったけれど、そうするとかえってよくないのではないかと思いましたと言います。
 
言い古されたことではありますが、生活する地域での人と人とのつながりは貴重です。
独り暮らしとはいっても、人は本来独りで暮らすなんてことはないんだよなあと思ったのでした。