医療って科学的?②

家庭医として患者さんと関わっていく中で、病気とは何か・健康とは何か・死とは何か…など様々なことを見つめ直す日々です。
 
(前回から続き)
ここまで聞いたら、良くそれでこれまで何事もなく医療がなりたってきたなと思うかもしれません。
要は江戸時代とそんなに変わらないんでしょ?と。
 
もちろん、決してそんなことはありません。医学は確実に進歩しており江戸時代とは全く違います。
そうです、経験や慣習によると言っても本当に全く根拠がないわけではありません。
大昔と違って、その辺の草をとってきて混ぜ合わせて薬を作っているわけではありませんから。
何らかの意図を持って薬を研究・開発しているので、それなりの科学的根拠はあります。
例えば抗生剤が良い例かもしれません。抗生剤は人間に感染症をひきおこす「細菌」を殺す薬です。これはその始まりこそ偶然の発見だったかもしれませんが、そこから細菌だけを死滅させる仕組みがわかり、それをもとに多くの薬が作られ、実際に効果を発揮しています。
つまり、この場合の科学的根拠というのは、ある薬が作用する仕組みが理論的にある病気に対して効くと証明されているということです。
 
なんだ、効果が発揮されると科学的に証明された薬なのか。だったらそれは科学的根拠に基づいた医療といっていいんじゃないの?と思うかもしれません。
 
しかし、ことはそう単純ではありません。
まず「ある薬が作用する仕組みが理論的にある病気に対して効くだろうと証明されている」の「効く」の意味が問題です。
例えば、高血圧の薬を例に考えてみましょう。高血圧の薬が「効く」と言った場合、それは血圧を下げる効果があるということだと思われるかもしれません。確かにそれは間違いではないでしょう。
しかし高血圧の治療とは、血圧を下げることなのでしょうか。これは忘れてしまいがちなのですが、高血圧の治療とは血圧を下げることではありません。血圧を下げることによって動脈硬化のリスクを下げ、ひいては脳卒中や心疾患を予防することが治療なのです。治療目標といってもいいでしょう。
ですから、高血圧の薬が「効く」かどうか判断するときにはその薬が血圧を下げる効果があるかは問題にしません(まあ、下げる効果があることは大前提です)。血圧が下がった結果、最終的に脳卒中や心疾患を予防するのかどうか、それが最も重要なポイントなのです。
 
いやいや、血圧が高いことが動脈硬化のリスクであるとわかっているのであれば、その逆に血圧を下げれば動脈硬化のリスクが下がり、脳卒中や心疾患を予防できるのは理屈から言って明らかではないの?と思うかもしれません。
(続く)