認知症という前に

家庭医として患者さんと関わっていく中で、病気とは何か・健康とは何か・死とは何か…など様々なことを見つめ直す日々です。
 
今回は認知症について。認知症にも定義があって、日本神経学会のガイドラインでは以下のようにしるされています。
 
認知症とは、一度正常に達した認知機能が後天的な脳の障害によって持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態をいい、それが意識障害のないときにみられる。」
日本神経学会 認知症疾患治療ガイドライン2010
 
ここから2つのことが読み取れます。
一つは「後天的な脳の障害によって持続的に低下し」ですが、これには認知症は基本的に治らないものであるという意味が含まれているように思います。逆に言うと治るようだったら認知症ではなく他の病気でしょう、ということになるでしょうか。しかし医学の進歩によってそのうち良い治療薬がでてこの記述が変わる日が来るのかもしれません。
また一方、「治療可能な認知症」と言われている疾患もあります。正常圧水頭症などがそれに当たりますが、これはまた別に機会に。蛇足ですが「治療可能な認知症」とは認知症の定義を考えると矛盾を含んだ言葉ですね。治療不可能なものを認知症といっているわけで、治療可能な時点ですでに認知症ではない、はず。まあどうでもいいですが。
 
さてもう一つ読み取れることは「日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態」の箇所です。逆に言うと日常生活や社会生活に支障をきたさなければ、認知症と言う必要は無いのです。特に病気とはならない。
認知症の代表的症状はいわゆる物忘れですが、同じように物忘れをしても周囲のサポート体制によって日常生活・社会生活に支障が出たり出なかったりするわけです。
つまり周囲のサポート次第で認知症にならなくてもすむのです。この辺りが肺炎や癌などの病気と違うところかもしれません。認知症は人と人との関係性に強い影響を与え、また認知症自身もそれから影響を強く受けます。
もちろん、「認知症」という病名がついた方がサポートしやすい場合もあるでしょう。介護保険を利用するときがそうです。このようにメリットが大きければ認知症と診断するのはいいかもしれませんが、何でも病気としてとらえてしまうのも考えものです。