医者はわかってくれない、と思われている?

家庭医として患者さんと関わっていく中で、病気とは何か・健康とは何か・死とは何か…など様々なことを見つめ直す日々です。
 
外来には色々な患者さんが受診されます。点滴希望で受診される方もいます。
点滴は人気の治療法の一つですね。単に薬を飲むのとは違い、「特別な治療をした」感がありますし基本的に医療機関以外ではできないことだから診療所にきて「点滴してほしい」というのも当然でしょうか。
 
しかし患者さんが点滴を望んでも、その中で本当に点滴が必要な状況というのは実はそんなに多くはありません。
ですから医師に点滴は不要であることを説明され、希望が通らなかった人もいるでしょう。あるいは、それでも点滴を強く希望してやってもらった人や、はたまたすぐに希望通りに点滴になった人もいるかもしれません。
いずれにせよ、この外来での点滴希望というのは患者さんの希望と医療者側がしたい対応とで対立が生まれやすい場面だと思います。この点について考えてみたいと思います。
 
まず、そもそも点滴というのは一体なんなのでしょうか。また、その中味は?
 
点滴は、人の血管の中に管をいれて直接その血管の中に水分(および薬など)をいれる方法です。血管の中に管をいれるには、一旦血管の壁を破って突き抜けなければいけません。そのために針をつけた管をつかって血管をさすわけです。
また当たり前ですが血管は皮膚の内側にありますから、まず皮膚を針でさしてそれを突抜け、その後で血管に到達します。痛そうですね。
このような点滴の歴史は意外と古く、「輸液(点滴のことです)による効果が初めてエビデンスのもとに提示された最も古い記録がリースの医師トーマス・ラッタによるもので、1832年にラッタがコレラの治療に際して、0.5%塩化ナトリウムと0.2%重炭酸ナトリウムをコレラ患者の静脈内に大量投与し症状が回復したことをLancet(有名な医学雑誌です)に報告している」ということをインターネットからの情報で知ることができます。
この時の点滴治療の目的は、水分の補給です。コレラは大量の下痢がでて体中の水分が失われ、それによって命を奪われる怖い病気です。点滴による治療の最初は水分の補給だったのです。
これは21世紀になった今でもそう変わりありません。特殊な治療は別として、外来の患者さんが希望する点滴でやっていることは水分の補給です。
では点滴の中味は何なのでしょうか。
実は(特殊な治療ではない)外来でしているような点滴の中味は水分と少しの塩分・糖分だけです。これに少しビタミン剤が入ることもあるかもしれませんが、本当にこれだけなのです。
 
このように、点滴でやっていることは口から水分をとらずに直接血管の中に水分をいれること、です。
ということは口から水分をとれる人は別に点滴をする必要は無いということになります。
点滴を希望して外来を受診される患者さんの多くは、口から水分をとることができますから、その時点で点滴をする必要がない人なんです。
ですから医療者側からみると「点滴といっても水分を補給するだけで特別な薬が入るわけではないのだから、口から水分を飲んで休んでもらえればいいですよ」となってしまいます。
 
しかし、こういわれて納得できればそれほど問題にはならないわけです。
実際には、そうはいってもしてほしい、と点滴を希望する人はいます。
なぜなのでしょうか。
(続く)