喫煙は悪なのか

家庭医として患者さんと関わっていく中で、病気とは何か・健康とは何か・死とは何か…など様々なことを見つめ直す日々です。
 
62歳男性の患者さんで、糖尿病・高血圧などで通院中の方がいます。糖尿病や高血圧の状態はとてもいいのですが、今日はうつむきかげんでこんなことを言います。
「タバコが好きで好きで、3箱も吸ってしまうんです。」
「やめたいとは思うんですけど、でも好きで吸ってしまうんです。」
どうして止めたいのかと聞くと、お金がもったいないから、と。
今吸っているのは「わかば」という一箱260円のタバコです。それが1日3箱ですから、260円×3箱=780円。それが1ヶ月で780円×30日=23400円です。
「あー、それくらいあれば旅行にも行けますね。」
この方は生活保護で収入は限られていますが、現時点で最低限衣食住に困ることはないとのこと。
また、タバコ以外に特に楽しみというものはなく「旅行にいけますね」というのは別に旅行がしたいわけではなく、そういうこともできますねという程度のようです。
 
さて、これを聞いて私が思ったのは「別にいいんじゃないでしょうか、お金がもったいないとは思いませんが」ということです。
例えばこれがタバコではなかったらどうでしょうか?
仮に旅行が趣味の人が1ヶ月に1回、2万円をかけて旅行するとします。これはお金がもったいないでしょうか。釣りが好きな人が釣り道具や釣りをするのに月2万かけるのはどうでしょう?洋服が好きで月に2万円かけるのは?
こららは特にもったいないとは思わないのではないでしょうか。好きなことにお金をかけているわけで、その金額に見合う対価を得ているのですから。
タバコはどうでしょうか。タバコだって同じはずです。好きなことにお金をつかって、それを楽しんでいるのです。本来はもったいないということにはならないはずなのですが。
 
やはりタバコだから、ということになるのでしょうか。
おそらくやめたいと思う理由はお金がもったいないだけではなく、喫煙への後ろめたさがあるような気がします。(もちろん生活保護という背景があるので、それも関係しているとは思いますが)
 
医師の立場からいうのは何ですが、この世の中の風潮としてタバコ=悪という単純なメッセージが蔓延しすぎているような気がします。
喫煙が健康を害するということや色々な病気のリスクになるのは間違いないでしょうが、だからタバコを吸うことが悪いことなのでしょうか。
もちろん、喫煙しない人や子供への配慮などは当然のことですが、それらを配慮したとしても喫煙=悪という図式は変わらないように思います。
 
この人のように好きなことにするのにも何となく後ろめたさを感じてしまうようなタバコへの今の風当たりの強さというのはちょっと行き過ぎではないかと思うのです。