家庭医の専門性

家庭医として患者さんと関わっていく中で、病気とは何か・健康とは何か・死とは何か…など様々なことを見つめ直す日々です。
 
前回紹介したプライマリケアの理念は、家庭医療の専門性という観点から語られることも多いと思います。しかし私は、継続性とか包括性というのは家庭医の専門性ではないと今は考えています。
継続性や包括性は非常に重要なことだとは思います。ただそれは家庭医ではなくてもやっていることです。質や程度の差はありこそすれ、循環器の医師も高血圧や慢性心不全を長くみていくことはあるでしょう。糖尿病専門医でもそうです。HIVの患者を診る感染症科医は様々な合併症をみるだけでなく、患者のパートナーや家族・仕事など社会背景も考えた診療を実践していると思われます。つまり包括性を持っています。
もちろんどんなことでもできる人できない人、やる人やらない人はいるわけで、継続性や包括性を持たずに診療する専門医もいるでしょうが。
 
さてそんな中で家庭医の専門性とは何かと考えたとき、それは複数の疾患をかかえた患者さん・複雑な問題を抱えた患者さんへのマネージメントだと思います。
高齢になればなるほど複数の問題を抱える患者さんの数は増えます。
高血圧、糖尿病、心房細動、脂質異常症骨粗鬆症白内障・・・中には癌の術後、脳梗塞後遺症などの既往を持つ人も珍しくはありません。たくさん病名がついて、10種類近い薬を飲んでいる人も珍しくはありません。病気や薬がたくさんあることについては、また別の問題がありますが・・・。
このような複数の疾患を抱える人をマネージメントすることこそが家庭医の専門性だと思います。
たとえば高血圧・糖尿病・心房細動・骨粗鬆症白内障の80代女性は、高血圧と心房細動は循環器科へ、糖尿病は糖尿病科へ、骨粗鬆症は整形外科へ、白内障は眼科へそれぞれ通院すればいいのでしょうか。現時点では、それぞれ通院している人も多いかもしれませんね。
そうした場合、各専門医は自分のみるべき疾患を診てはくれますが、基本的にはそれだけです。生活背景などを意識してマネージメントしてくれるかもしれませんが、あくまで診るのは個々の疾患のみです。
それは当然です、それが専門医の仕事というものです。
でもそれでこの80代女性に必要な医療が提供されているか。必ずしもそうではないと思います。
 
肝となるのは、複数の疾患の個々の専門的なマネージメントではなく、それらの重み付けです。
複数の疾患を抱えていても、その一つ一つが持つ意味はその患者さんにとって違います。
そこに優先順位をつけられるのが全体をみる家庭医であり、その人のことを長くみている家庭医であるということだろうと思います。