家庭医のアプローチその2 働き盛りの患者さん②

家庭医として患者さんと関わっていく中で、病気とは何か・健康とは何か・死とは何か…など様々なことを見つめ直す日々です。
 
(前回の続き)
家庭医のアプローチと通常の内科医のアプローチとを比べると
 
「その他に何か気になっていること、心配されていることはありませんか?」
「いや、明日から重要な仕事があるので早めに治したい思いまして。」
 
このやり取りだけに違いがありました。
しかしこの問いかけ自体はそれほど特別なことではなく、大事なのはこの問いかけを発するまでにどのような情報を収集し、思考をしているか、です。
家庭医が何を考えていたのか、それを探っていきましょう。
 
まず、朝一番の診察前のカルテをみて「40歳男性」とあった時点で「む。」と考え始めます。予診表には「風邪」と書かれています。
 
「む。」というのは、通常よりもやや慎重に考えなければいけないなと思っているのです。なぜでしょうか。
それは40歳の働き盛りの男性というのは簡単には診療所には来ない(ことが多い)からです。診療所・病院にいくということは仕事の時間を潰すことになりますから、働き盛りの男性であればちょっとした症状では受診はしないだろうと考えるわけです。
だからその人が診療所を受診するということは、重症であるという可能性が高く見積もる必要があります。
その場合、通常の場合よりも検査をしようとする閾値が下がります。同じ風邪症状であっても血液検査をしておこうと考えやすいということです。
 
次に、過去の受診経過を見ます。
特に定期的な内服薬はなく、健診結果でも特別に異常を指摘されているものはないようです。
また、どうやら年に1-2回は風邪症状で受診されているようです。
 
さて、ここまでの経過で最初「む。」とやや緊張していた気持ちがやや薄らいできました。
それは、定期的な内服がなく健診異常もない、この人がいわゆる生来健康だ(=病気持ちではない)から、ではありません。
そうではなくて、年に1-2回は風邪症状で受診するという受療パターンがわかったからです。
もしこれが元々健康で、めったに医療機関を受診しない人であったならば緊張の度合いが強まったと思います。
しかしこの人は働き盛りの男性であるが、たまに風邪症状で医療機関を利用する人だったのです。であれば今回も同様の受診パターンである可能性もあります。それが少し安心する理由です。
また、受診した時間が朝一番だったことも、軽症である可能性を上げる理由のひとつです。この後、勤務先に行こうと考えているからです。
もしこれが勤務先から早退して受診したということになれば、逆により注意して診察するでしょう。全身状態が悪い可能性が高くなるからです。
 
診察の結果は特に問題なく、いわゆる風邪で問題ないようです。
であればなおさら、なぜこの人がこのタイミングで受診したかは聞いておく必要があります。「受診理由」を明らかにしておきましょう。
軽症の風邪でも病院に受診するような背景があるはずです。何か重篤な病気を心配しているのか、あるいは家族が心配しているのか、勤務先に関連することがないか…など。
今回は「明日から重要な仕事があるから早めに治したい」でした。よくある理由の一つだと思います。
であれば、治療は対症療法のための内服薬を処方する、でよいでしょう。
 
・・・このような思考で、あのやり取りがなされていたのでした。
次回はまとめです。
(続く)