家庭医のアプローチその2 働き盛りの患者さん①

家庭医として患者さんと関わっていく中で、病気とは何か・健康とは何か・死とは何か…など様々なことを見つめ直す日々です。
 
家庭医のアプローチについて、働き盛りの男性が受診した例を通じて紹介したいと思います。
わかりやすくするために、通常の内科医の場合と、家庭医の場合の2通りの診察の様子を見ていただきましょう。
 
まずは通常の内科医の場合です。
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スーツ姿の40歳男性が朝一番で受診されました。
初診ではありません。「どうされましたか」と聞くと「ちょっと調子が悪いんです」と、経過を話してくれました。
話によれば数日前から倦怠感と37℃台前半の微熱があるとのことでした。
咳、鼻水、咽頭痛もあるようです。
 
いつものとおり診察していくと、喉は赤くなっていますが聴診では呼吸の音は問題ないようです。
食事もとれているようで、診察結果としてはウイルス性上気道炎の可能性が高いと思われました。
「おそらく風邪でしょう。状態はそれほど悪くないようです。」
「そうですか、それならよかったです。」
「それでは症状を和らげる薬を出しておきますね。風邪でしたら通常はもう数日でよくなっていくだろうと思います。もしこれから熱が上がってきたり、症状が悪化したりするようなら無理せず早めに受診をしてください。」
 
・・・・
 
…これで診察は終了です。
内科的な診察として、特に問題はないと思われます。おそらく診断は間違っていないでしょうし、適切な治療をされていると思います。
 
では家庭医のアプローチはどこが違うのか。それを見てみましょう。
・・・・・・
スーツ姿の40歳男性が朝一番で受診されました。
初診ではありません。「どうされましたか」と聞くと「ちょっと調子が悪いんです」と、経過を話してくれました。
話によれば数日前から倦怠感と37℃台前半の微熱があるとのことでした。
咳、鼻水、咽頭痛もあるようです。
 
いつものとおり診察していくと、喉は赤くなっていますが聴診では呼吸の音は問題ないようです。
食事もとれているようで、診察結果としてはウイルス性上気道炎の可能性が高いと思われました。
「おそらく風邪でしょう。状態はそれほど悪くないようです。」
「そうですか、それならよかったです。」
 
「その他に何か気になっていること、心配されていることはありませんか?」
「いや、明日から重要な仕事があるので早めに治したい思いまして。」
 
「そうですか、それでは症状を和らげる薬を出しておきますね。風邪でしたら通常はもう数日でよくなっていくだろうと思います。もしこれから熱が上がってきたり、症状が悪化したりするようなら無理せず早めに受診をしてください。」
 
・・・・・
…以上で診察は終了です。
あれ?ほとんど変わらないじゃないか!と思われたかもしれません。
確かに、ほとんど変わりません。
違いと言えば、
 
「その他に何か気になっていること、心配されていることはありませんか?」
「いや、明日から重要な仕事があるので早めに治したい思いまして。」
 
この会話が挟まっていることくらいでしょうか。
この問いかけ自体は、それほど大きな違いには思えないかもしれません。少し気の利いた内科医であれば、これくらいのことは聞いているかもしれません。
しかも聞いたからといってその後のやり取りが何か変わったわけではありません。
 
しかしこの問いかけには家庭医のアプローチの重要な要素が含まれています。
それを知るために家庭医がこの問いかけを発するまでに、どのような情報を収集し、どのような思考をしたのかを探っていきましょう。
 
(続く)