家庭医のアプローチ②

家庭医として患者さんと関わっていく中で、病気とは何か・健康とは何か・死とは何か…など様々なことを見つめ直す日々です。
 
(前回の続き)
それでは家庭医のイイDrが「生物心理社会モデル」でアプローチしてみましょう。
 
起立性低血圧があると判断するところまでは、イガDrと同じです。
さて、その原因は?
(うーん、困ったな)
と思いながら、過去のカルテ記載を見直してみると、ここのところ血圧は100前後で推移しています。
(!ああ、ちょっと血圧の薬が効きすぎているかな。減らす必要があるな)
生物医学モデル的には降圧薬による過降圧(血圧の下がり過ぎ)が原因の起立性低血圧ということになります。
 
さてここからがイイDrの生物心理社会モデルによるアプローチです。
 
それでは心理社会面ではどうでしょうか。
そんな視点で過去のカルテ記載を見てみると…3週間程前に「薬をなくした」といって他の先生の外来を受診し、不足分を追加で処方されているではないですか。むむ。
そしてこの方は独り暮らしです。今までは日常生活では誰の手もかりず、特に問題となるようなことはありませんでした。お子さんは長男・長女の2人。たまに近所に住む長女さんが様子を見に来るようですが…ちょっと長女さんにも話を聞いてみることにしましょう。
長女「ああ、最近は何度も同じような電話をしてくることが多くなっていますね。薬が無い無いといって大騒ぎになったこともあります。結局、処方してもらったようですが。」
なるほど…ひょっとしたら薬の管理ができなくなっているのかもしれないな。薬の飲み間違い、飲み過ぎで血圧が下がりすぎている可能性もある。
 
そこでイイDrは長女さんにお願いし、内服状況を確認してもらいました。すると、1ヶ月分あるはずの薬が2週間ほどで無くなりかけていることがわかりました。どうやら1日に何回も血圧の薬を飲んでいたようです。それが立ちくらみの原因だろうと思われました。立ちくらみがおこっていたのは処方に問題があるのではなく、誤った飲み方をしていたからだったのです。つまり服薬管理が問題でした。
 
長女さんの話から認知機能低下により服薬管理が困難になっている可能性があると考えたイイDrは、薬の管理の仕方を工夫すること、長女さんに訪問の回数を増やしてもらうこと、介護保険の申請をしてもらうことなどを提案しました。また認知機能低下についても精査をすることにしました。
 
服薬管理は服薬カレンダーという道具を使うことにしました。それはカレンダーの日にちごとに小さなポケットがついているもので、そのポケットにその日飲む薬を入れておくのです。服薬カレンダーのポケットに1ヶ月分の薬を分けて入れるのは長女さんにお願いました。
こうすることで川端さんは1日に同じ薬を重複して飲むことがなくなりました。
そうして血圧も120程度に安定し、立ちくらみの訴えも無くなったのでした。
 
 
…いかがでしょうか。
私の立場上、どうしても「生物心理社会モデルによるアプローチ」がよかったね、という話になってしまいますが、これは実際に起こりうる話です。
 
なにがちがったのか。
イイDrは薬を飲み過ぎているということに対して、単に処方薬の調整という視点だけでなく、心理社会的側面からも考えてみたのでした。具体的には、認知機能低下がないかということ、単身生活者という生活背景について考えました。そうして、服薬管理ができていないのではないかという問題点を見いだすことができ、今回のような結果につながったというわけです。
 
起立性低血圧の原因となる病気はいくつもありますが、今回の場合はいくら病気を探しても見つかりませんし、単に本人に薬を減らすように言っても、あるいは処方自体を減らしてもだめだったでしょう。
しかし特に今回は本人の生活背景も考えてアプローチすることで起立性低血圧の原因がわかり、対応もできたのです。