家庭医の得意とする問題

前回家庭医の診療範囲を取り上げました。
全ての人にとってあらゆる健康問題をまず相談できる医者が家庭医でした。
 
しかしあらゆる健康問題を…といってもわかりにくいかもしれません。
例を一つ出しましょう。
 
「最近、よくころぶ」
例えばあなたの夫(あるいは妻)が最近よく転倒するなあと心配になったとき。
あなたは何科を受診しますか?
転んでけがをしているから、外科でしょうか。転倒後に痛みで動けなかったら骨が折れているかもしれないから、整形外科でしょうか。
大けがをして出血が止まらないとか、痛みで全く動けず救急要請が必要という状態であればそれぞれ外科や整形外科を受診するのはよいでしょう。
でも、その後は?あるいは幸い派手な怪我はなく一応動ける状態だったら?
 
そんなとき、とりあえず相談できるのは家庭医です。
 
「よく転ぶ」という問題は家庭医が得意とするところです。
というのは、「転ぶ」ことについて対応すべき問題は非常に多岐にわたるからです。
風邪の場合は風邪薬をだしておきましょう、とシンプルで終わることが多い(もちろん、実は複雑な問題が背景にある場合もありますが)ですが、転ぶという問題は色々なことが関連していて、そう単純にはいかないことが多いのです。
 
例えば転ぶ原因です。
転びやすくなる原因は様々です。
ひとつは、歩行が不安定になる病気があります。パーキンソン症候群では歩行が不安定になります。変形性膝関節症で膝が痛くても歩行は不安定になり転びやすくなるでしょう。
不整脈や低血圧が転倒の原因となることもありますし、実は薬の可能性もあります。
感染症などの急性疾患で体全体の調子が悪くて転んでしまったのかもしれません。
もし高齢であれば、加齢に伴う変化も見逃せません。視力や平衡感覚の低下、脚の筋力低下も転倒の原因になります。
あるいは室内の環境はどうでしょうか。段差があってつずきやすくなっていないでしょうか。照明が十分でしょうか。
 
このように原因が様々ですので、治療を含め対応することも様々です。
何らかの病気が疑われれば検査や治療をすることになりますし、薬を見直すことも必要でしょう。
ちなみにこの薬を見直すときに、複数の医療機関を受診しているとそれがやりにくくなります。薬手帳があるから薬の内容はわかるはず、と思われるかもしれませんが、薬の内容がわかっても他の医師が出している薬を変更しようとするのはかなり労力のいることなのです。
また加齢に伴う変化が問題だとすれば、「治療」は難しくなります。加齢を治すことはできないからです。しかし予防することはできます。目がみえにくくなっている高齢者は、白内障の治療をすることが転倒予防につながるかもしれません。筋力低下を予防するリハビリも有効でしょう。
生活環境の見直しも必要です。もともと転倒しやすくなっている高齢者であれば、段差や照明などの室内環境はより注意する必要があります。
 
このように転倒の問題は医療だけでなく介護・福祉も関わることがあり、様々な職種が協力して問題解決にあたることが必要になってきます。
 
家庭医は病気の種類に関係なくみますし、病気でなく加齢の問題であっても対応します。また他の職種との連携を大事にしますから、「転倒」は家庭医が得意とする問題の一つだろうと思っています。