便のこと下痢のこと

冬になると胃腸炎が流行します。
診療所では嘔吐下痢の患者さんが増えると今年も冬になったなあと妙な季節感を感じたりするものです。
腸炎の典型的な症状は嘔吐と下痢です。
今回はその下痢について取り上げたいと思います。
 
そもそも下痢って何ですか?と聞かれて、はっきりと答えられる医師はひょっとして少ないかもしれません。
というのも、下痢の定義には厳密なものはなくて、
「異常に水分の多い便」「固形ではない便が頻度を増して排出されること」
とされているのです。(ハリソン内科学第17版 日本語版より)
一般的な感覚と変わりませんね。
 
腸炎ではこの下痢が水みたいな便で、しかも頻回にでます。
ですから患者さんの中には「どうせ水分をとっても出てしまうから水は飲んでいません。」という人もいます。
水分をとるから水のような便が出てしまう。水分をとらなければ下痢は止まるはず、と思って水分をとらないようにしていたという人もいます。
 
しかしこれは大きな勘違いです。
おそらく便の組成やでき方に関する誤解がこのような勘違いを生んでいると思われます。
 
まず、正常な便から考えてみましょう。便の成分が一体どのようなものか、考えたことのある人は少ないでしょう。多くの人は食べたもののカスが便の主成分だと思っているのではないでしょうか。
しかしそうではありません。食べたもののカスは便のほんの一部なのです。
 
<便の成分>
水分:65-85%
固形成分:15-35%(このうち1/3〜1/4が腸内細菌、それ以外に脱落腸粘膜細胞、食物残渣など)
 
このように便の主成分は実は水分で、食べたものにもよりますが食物残渣が占める割合は意外と少ないのです。
また腸内細菌とは人の腸の中に住んでいて消化吸収に役立っている正常な細菌ですが、その死骸も便として出てくるわけです。
ですから、特に何も食べなくても便の排泄はあります。
ただ、飲まず食わずの状態では体全体の働きは低下するので当然排泄の機能も低下して回数や量は減ることにはなるでしょう。
 
さて、では下痢についてはどうでしょうか。
水分をとらなければ下痢がとまるのでしょうか。
(続く)